対極コンビ

オーストリアでは現在営業している全ての商店において、従業員も利用者もマスクの着用が義務となっている。スーパーなど一定の広さがある店においては、他人との距離を十分にとるため一人一台のカート利用を義務づけているところがほとんどだ。そして多くのスーパーの入り口では消毒液と大量のキッチンペーパーが用意してあり、カートの持ち手を消毒してから入店するようになっている。

今日買い物に行ったスーパーは従業員が入口に立ち、利用された全てのカートを消毒してから次の利用者に渡していた。オーストリアの感染者は順調に減少傾向にあるという事実から緩和を望む声が日々大きくなっているが、慣れないマスクをしてカートをひとつひとつ丁寧に拭いて渡している彼の姿は気の緩みとは対極にあり、私の目にはとても頼もしく映った。

必要なものをカートに入れ、いつも好んで使うセルフレジの列に並んだ。いくつかあるセルフレジのすぐ近くにも一人の従業員が手に消毒液を持ち立っていた。なるほど、タッチスクリーンもカートの持ち手と同じ。ここも毎回しっかり消毒しているのか、と感心した。

しかし。

私の前の人が会計を終え立ち去るのを待ってセルフレジに近づいたのだが、その従業員には動く気配がない。消毒液を持ったままつまらなそうに立っているだけ。私の視線に気づいても、立っているだけ。

仕方がないので「消毒してもらえますか?」と声をかけたところ、

ハァー

と大きなため息をつき、ダルそうにこちらに近づき、タッチスクリーンの3分の1ほどを、消毒液を使わずにもう片方の手に持っていた乾いたキッチンペーパーで拭いた。

こいつにはきっと、何を言っても通じない。

瞬間的にそう納得し、普段から頭を使えない輩とは関わらないことを信条としている私は何も言わずにレジを終え、相変わらず熱心にカートを拭いている彼に心からありがとうを言ってスーパーを去った。

ウィーンではこういった輩に出くわす確率が高い。カートの君とコンビだっただけ今回はましだと考えながら家路についた。