挨拶

ウィーンでは相手が女だろうが男だろうが友達と会うと、挨拶に頬をくっつけるキスを2回する。左と右に1回ずつ、それが一般的だ。男同士だとキスをする場合もあるが、軽くハグを交わすほうが多いと思う。始めは勝手がわからなくて無駄にどきどきしていたが、もうさすがに慣れた。逆に今でも(ここ1か月そんな機会はなくなってしまったが)対応に困るのは、友達の友達といった自分との親密さが微妙なときの挨拶だ。友達の友達といっても初対面。握手で済ますべきか?キスをするべくその胸元に飛び込んでいくべきか?相手の様子を探りながらなんとなく雰囲気で使い分けているが、後からちょっと間違えたかな...と思うときもある。

ビジネスの場においてもこの挨拶は変わらない。さすがに毎日オフィスで顔を合わせる同僚とはしないが、1か月に数回の頻度で会う同僚とは会ったときと別れるとき、必ずキスの挨拶をする。ドイツなど挨拶でキスをしない国もあるのだが、イタリアやスペインの影響か、私の職場ではそれがスタンダードと化している。この挨拶のデメリット(?)はやたらめったら時間がかかることだ。例えばヨーロッパ各国からの出席者20人の社内会議があったとしよう。私のキスの回数は朝っぱらから20人×2で40回に及ぶ。キス魔か。会議室に集まる人が全員とキス(男同士だと握手)をするため、会議室で200回分握手またはキスの挨拶が繰り広げられる。もちろん挨拶がてら「最近どう?」とか「フライトは遅れなかった?」とかちょっとした世間話に花が咲くことになるため時間がいくらあっても足りはしない。そして、会議が終わると別れの挨拶で同じことを繰り返すのだ。

ちなみにヨーロッパあるある話をすると、挨拶のキスをするとき回数や順序が噛み合わず顔を正面で突き合わせてしまい、よもや唇がぶつかりそうになるなんてこともある。出身の国や地域によってキスの回数が3回だったり、回数は同じでも左からか右からか、順序が違ったりするためだ。私が知る限りイタリアは2回のキスを右から、フランスは左右左と3回する。

オーストリアがこのまま順調に規制を緩和していっても、国を越える出張ができるようになるまでどのくらいかかるかはまだ誰にもわからない。次に同僚たちと会うときはキスの挨拶はおろか握手もできないだろう。それ自体は別にどうでもいいが、なんとなく納得がいかないのは、それが世間話の短縮には繋がらないであろうことだ。