愛しのサマータイム

3月の最終日曜日といえば、待ちに待ったサマータイムが始まる日である。

この日、ヨーロッパで暮らしている者にとっては恒例行事であるが日本人からすると想像しがたい「時間をずらす」ことが行われる。サマータイムが始まる3月は午前1時59分59秒から一気に3時まで時間が進められ、10月の最終日曜日には2時59分59秒から2時に戻す。ヨーロッパに暮らし始めて何年もの間どちらが時間を進めるほうでどちらが戻すほうなのか混乱していたが、

サマータイム開始→1時間睡眠が削られるがサマータイムが始まって幸せ

サマータイム終了→冬の始まりを感じ気分が沈むが少なくとも1時間は長く眠れると思って自分を励ます

と意識するようになってからは間違えなくなった。

最終日曜日と決まっているため勘違いしがちだが、実際は土曜日の夜中に時間をずらすため特別意識していないと気付かないことも多い。まぁ、日曜は基本的に家にいるだけという私のように怠惰な人間だとそれでも困ることはないのだが。

一度、これは10月だったのでサマータイム終了の際の話だが、最終日曜日の午前4時台に出発する飛行機に乗る予定があった。自宅から空港に行くタクシーを予約する段階でサマータイムが終了する時間とかぶっていることが判明し、迎えの時間を確認するのに大変ややこしかったことを覚えている。

そんな小話が絶えないサマータイムだが、時計を年に2回手動で修正するのも今年が最後になる。EUにおけるサマータイムの廃止が去年決定しているのだ。といってもこれは年に2回時間をずらす行為を廃止するもので、本来の中央ヨーロッパ時間(グリニッジ標準時+1時間)を採用するのか、それより1時間早いサマータイムを1年を通して中央ヨーロッパの標準時間とするのか、そこのところはまだ決まっていない。

夏は日が長くなるのに加え、サマータイムによりさらに1時間日没の時間が遅くなるため、ウィーンでも最長で午後9時頃までは外が明るい。夏の夜を家族や友人と外で過ごす時間は暗く長いヨーロッパの冬を耐えた後だとひときわ魅力的だ。サマータイムの始まりはそんな素敵な夏を早くも予感させてくれる。無論楽しみにしている人は多い。

当初は戸惑った「時間をずらす」という煩わしい行為も、今年で最後だと思うと少し寂しく感じるのは私だけではあるまい。